色の専門家として、ファッション業界からは何を求められることが多いですか…?

今年の流行色は?というのを最もよく尋ねられますね。

売る側としては売るためのツールとして流行色を知りたがるわけですよね?

今年のショーウィンドウには黄色を多く見かけます。今は多品種小ロットが主流ですし、「大衆」ではなく「個人」がテーマですので一口に黄色と言っても、様々な黄色が登場していて華やかです。いかに「個」の満足を高めるかが大切です。 昔は「サービス」と言いましたが、今は「ホスピタリティ」という言い方をします。 広い意味での「サービス」を提供するよりも、「あなただけの満足を高める」ような、「あなたの心に響く」ようなサービス、という意味で「ホスピタリティ」の言葉がよくつかわれています。この個人の満足度を高めるために、色はひとつの大きな要素になってきています。 まさしくパーソナルカラーの時代だと思います。

十把ひとからげにこれが流行色ですから、という提供の仕方をするのではなく、個々人に応じた提案をするということですね?

昔はミニスカートが流行ならみんなが揃ってミニスカートで、ファッションはある意味で決められていましたが、今は多様化しています。例えば夏でもブーツを履くとか、規制がなくなっています。 その人が自分にとってベストな装いだと考えて、季節感問わず、自分を主張する、というのがひとつのスタイルになっていますよね。 その傾向はますます強くなるだろうなと思います。

色を専門とする会社を立ち上げられたのはなぜですか?

衣食住、全てに色は存在しています。 色の必要性をあらゆる業界に説いていきたい、というのが一番はじめの考え方でした。 ブライダル、フラワー、ファッション、化粧品…あらゆる業界に色の必要性、必然性を語り部のように語ってきました。

なぜ色が重要であると思われるようになりましたか?


それは色がすごいパワーと持っている、ということと、色によって売り上げが違うということからです。 わたしもデザイナーをしていたことがありますが、デザインは売れてなんぼです。 どんなに素晴らしいデザインでも市場で売れなければ、それはいいデザインとは言われません。売れる、ということは求められている、ということに結びつきます。 売れれば明確に数字となって現れます。 となればそれはいいデザインであり、求められているものということです。 そのような状況の中で、形をあまり変えることなく、色を変えることで随分売り上げが変わったという実感を得ました。 形や売り方を変えるのではなく、色を変えるだけでこんなに数値が変わってしまう。 それに気づいたのは25年ほど前でした。 それまでは形があって当たり前で、色はその添え物みたいなものでした。 例えば建築物なら形を考えるのが先で、最後になってじゃあ壁の色はどうする?と考えるように。しかもそれ(色)は無償で付いてくるもの、という意識がありました。 ところがデザインの仕事を通じてそれは変わりました。 去年のものが、形は変わらなくても今年の色を付けることで、去年とは違う数字が取れる。そこに色のパワーのすごさを感じました。色に着眼した第一歩です。 数字というのは明確な証明になりますよね。だから数字上で示せる、ということがすごいことだなと思ったんですね。 当時は誰も色だけを切り取って仕事にしていませんし、そんなことできないと思っていたはずですから、だったら切り取った色だけでビジネスのモデルを作ってみよう、と思いました。 その業界としてどう色と付きあうべきか。各業界に対する色の発信元でありたいと考えました。

色の仕事のことを教えて頂けますか?

形や大きさは変わらず色だけを変える、つまり色が大きなメッセージを持つ仕事には大手化粧品会社のものもありましたし、ホテルのアメニティなども多くありました。 パウダールームに入ったときに色から受ける心理的な効果というのはそのホテルの特徴にも結びつくのでとても重要です。 色を変えるだけで表情を変える、というかつてデザイナーとして行っていた仕事とそれは同じです。 色はメッセージツールです。言葉を色で表現することができますし、色で言葉を発することもできます。 ものを読ませるのではなく、ものを見させることで手軽に言葉を伝えることができるのです。だからアメニティのパッケージを何色にするか、というのは重要なのです。さわやかなリラクゼーションを目的としたホテルならば、そこでくつろいで欲しいし、まわりの環境と溶け合うものを表現したいので、それに見合った色使いを提案します。 シティホテルならば、静けさというよりも都会のシャープさやモダンなイメージを表現した方がいいので、そのような色使いを提案します。 そのような仕事は色だけでメッセージを伝えるというコンセプトにぴったりあっていました。つまり形にごまかされることなく、色だけで強烈なメッセージを発していくこと。 まさに色の仕事ってそういうことだと思います。 色の仕事は「配色提案」です。 ファッションで言えば、頭のてっぺんからつま先まで全身一色で装うというということはまずないわけですから、どの色がその人に似合うか、ということも「配色提案」です。 おなべの色…取っ手やつまみとの配色ももちろんですが、専門店で扱うのか量販店で扱うのかといった環境条件との調和も考えて「配色提案」を行います。色の仕事には、配色調和の理論を知ることが大切です。 配色調和の考え方はずっと昔から存在するものです。例えばゲーテも有名ですし、科学者のシュブルールは、ゴブラン織りのマットが売れなくなった原因を調べるようフランス政府から依頼されて、色の対比現象の理論を打ち立てました。そうして今の配色調和のもとを作っていますし、この理論は当時の印象派画家にも影響を与えました。 (オフィス事務用品のファイルケースの写真を示しながら) 売れないのはこの色。(写真のパステルグリーンを指して)これは捨て色。 でも物は全て配色で見せますから、黒が売れるからって黒ばっかりを並べていたって売れないんですよ。 この黒の鮮度を出すのがこの色。この色を今年の色として出すことで、消費者はあら、素敵な色が出たわね、と言いながら黒を買うんですよ。 だからロット数としては一番売れる黒を一番多く作ればいいし、多くは売れない色は少なく作ればいいのです。 このように「配色」で鮮度を高め売っていくことができるのです。

売れる色売れない色にやはり理由はありますか?

それは時代とともに変わりますね。 時代というのは動いていますから、価値観も移り変わります。20年前の考え方が今も通用するかといえばもちろんそうではないし。 色の持つ意味も変わっています。例えば江戸時代黒は喪の色でしたが、今はおしゃれな色のイメージが先行します。 今必要とされている色というものを見極める必要はあるでしょう。 色は衣食住全てに関係があるわけですが、例えばアースカラーのブームは長く続いています。 リラックスや和みと結びつくような色が求められているのは確かでしょう。 個人的なもの、ファッションで言えば、今は自己表現の時代ですから自分をどう見せたいのかという演出の中で大いに色を使っていく時代が到来しているなと感じます。 自己表現のツールとして色は最大のものだと思います。

今後求められる色はどのようになっていきそうでしょうか?

世の中不透明ですから…アースカラーブームはしばらく続くでしょう。 高度成長時代は派手な色も流行しましたが、今は高齢社会になっていますし、その時代の気分で考える機運も高いですからやはり色でリラックスしたいというのは続くでしょう。 また、パーソナルカラーの時代でもありますから、色での自己主張は強くなっていくでしょう。 あなたの色でバッグを作りますなどのオーダーシステムがすごく増えましたし、わたしだけの色、わたしだけの物、を持っているという満足感が売りになってきています。

20年近く会社をされてきて仕事の中にどんな時代の変化を感じてきましたか?

求められる基準とテーマが変わってきているだけで、色が求められているということは変わらずにあります。その中でクライアントから求められるものも今はより自己表現の時代を反映してパーソナルカラーっぽくなったかもしれません。



株式会社カラースペース・ワム
代表取締役
ヨシタミチコ

1988年株式会社カラースペース・ワム設立
自治省(現総務省)「文化の街づくりレディースフォーラム」の委員を経て、
色の感情効果や生理的・機能的効果などの専門知識に基づき、美容
・ブライダル業界における、パーソナルカラー検定Rに関する講演を多数手がけている。
また、色彩のプロを養成するカラリストスクール・ワムI.C.Iを主宰し、東京、大阪校の卒業生は2000名を越える。

カラースペース・ワムHP  http://www.color-space-wam.co.jp





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